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野菊の如き君なりき(1955) Comments (3)
ギターの悲しい音色が涙腺を緩めます
物語は1955年の現代から始まり、回想シーンを本編とします
回想は1897年の秋とその翌年の正月前後、春、夏、秋と進みます
悲恋の哀れな結末に涙させられます
確かに語られる悲恋は身分違いに因るものでしょう
しかしその当時でも周囲の助けが有れば絶対に乗り越えられなくも無い障害でありました
本人達があまりに若過ぎ、回りの大人達の下衆びた心根や人間性の欠如が悲劇を産み出したのです
それゆえに大人になって子供をもつ歳にもなると、刺さる痛みも違ってきます
複雑な味わいを醸し出す名作だと思います
回想シーンは楕円形のスコープを覗くような映像となります
良くみられるありふれた手法ですが、ほぼ全編に渡って使われるのは大変珍しいと思います
ラストシーンで野菊の花を回想のスコープで捉えたものが、そのスコープだけが消えます
視界を制約していたものがいきなりなくなるという秀逸な演出が見事だと思います
信州の山、川、自然は60年経とうとも、そのままそこに何も変わらずに在ります
1955年には完了した農地改革という半革命により、大地主は消え身分違い等というものは消えてなくなりました
それを示しているのだと思います
本当のテーマはこれだったのかも知れません
しかし千曲川の流れも信州の山々の姿は何も変わらないのです
若き日の美しい思い出も変わらないのです
本作公開から60年以上経ちました
21世紀の現代に老人が1955年当時を回想してこのような悲恋が成立しえるのでしょうか?
きっと今もこれからも変わらず在るのだと思います
なぜなら山と川が変わらず在るように人の心も変わりはしないからです
心の中に変わらずいつまでも在るのです
リンドウの花言葉
「悲しんでいるあなたを愛する」だそうです
渡し船に乗る老人(笠智衆)の回想シーンから物語が始まる。いつも読んでもらっていた昔話の「昔々、あるところに・・・」で始まるような導入部は違和感なく子供の心に響いたのであろう。もとより恋愛感情など判る筈もなく泣いたのは大切な人を失うというショックの方だったと思う。リメイクもされた悲恋物の名作だが、人間を描かせたら天下一品の木下恵介監督の脂ののった時期の作品、余人を以って代えがたい。