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その土曜日、7時58分 Comments (20)
邦題となっている土曜日の朝を基点として、ハンク(ホフマン)、アンディ(ホーク)、父チャールズ(アルバート・フィニー)の視点を用いて、数日前やその後を描くスリリングな時系列編集で魅せてくれる。さすがオスカー監督だけあって、心理劇の重厚さはさすがだ。
ハンクはヤクに溺れ、会社の金を使い込み、国税局が調査に来るからと何度も会社から電話が入る。アンディは離婚してから養育費の支払いが半端ないくらいで金がない。どうせ保険金が出るんだし、銃を撃つこともないと高をくくっていたのだ。しかし、実行犯を雇ってしまったという間違いによって思わぬ不幸な方向へと進み、どん底に落とされてしまう家族。おまけにハンクの妻ジーナ(トメイ)と浮気しているというおまけつき。
どうしてここまで落ちるんだ?原因はこのハンソン家だけではなくアメリカ全体が抱える闇の部分にもあるのだろう。薬物もそうだが、酒場で雇ったボビーにしても、脅迫してくる義兄にしてもクズとしかいいようのない男たち。「ボビーならレンタカーなんか借りないわよ。すぐ盗むから」というセリフもその象徴。流れとしてはブラックコメディなのだが、ルメットが撮ればこうした重々しい作品になるのだと主張してるかのよう。
冒頭映像では、このマリサ・トメイの激しいセックスシーンとナイスバディを披露。『レスラー』(09)でも脱いでいるけど、この作品の方が魅力いっぱい。父親のアルバート・フィニーも安定の演技力でした。
原題の意味も奥深く、悪魔に知られる前に天国に着きますように・・・と、この2年後にシドニー・ルメット監督が天に召され、5年後にフィリップ・シーモア・ホフマンが若くして亡くなりました。合掌。
物語の時間軸がソレゾレの登場人物や事柄によって入れ替わり渋い演出によってシンプルに話は進んで行く。
最初から最後までダメっぷりを発揮するE・ホークに賢そうだが結局は殺しまくる暴挙に出るP・S・ホフマン。
父親は息子たちの責任よりも愛する妻、兄弟の母親を殺されているからタチが悪い。
父親とE・ホークの今後が気になる。
時間軸を解体したスタイリッシュなクライム・サスペンスだが、次々と新たな展開を見せ、単なる犯罪映画に終わらせない。兄から持ちかけられた宝石店強盗に失敗した弟が、兄貴に助けを求める冒頭シーンでは、頭の切れる兄(卑怯な性格だが)がダメダメな弟のために完全犯罪を崩されるという単純なクライム・サスペンスと思われた。しかし、物語が進むにつれ、徐々に明らかになる「家族」の中に潜む「闇」。血の繋がりがあるからこそ、憎しみが増大していく壮絶な人間ドラマに変化していく。物語の鍵を握るのは長男による父親への憎しみと弟への嫉妬心だが、父親や弟からの目線で見ると、1つの事件の見方が変わってくる。子供の頃から、父親の愛を一心に受ける弟への嫉妬と、父親以上の存在になろうというプレッシャーから、長男の性格は一種破綻している。美しい妻を持ち、会社でそれなりの地位につき、裕福な暮らしをしているかに見えた長男は、ドラッグにつかり、会社の金を横領し、ついには父親の宝石店強盗を企てる。しかしその土曜日、7時58分に彼の運命は転落へと向かってしまう。事件の失敗から浮き彫りになる長男の父への愛憎。激しい慟哭は胸にせまるものがある。これを父側から見ると、妻を殺した強盗犯へ大きな復讐心を燃やし、執拗に追い詰めることとなるのだが、その犯人が自分の息子と知った時の驚きと絶望。そこで父が示す最後の判断が、復讐からなのか慈悲からなのか私には解らない。しかし、父として息子の苦しみを理解できなかった自分への憤りもあったろう。あまりにも悲しい結末だ。さて、これら父子の壮絶な愛憎物語から完全に蚊帳の外になっているのがダメ男の弟。弟側から見るとすべて自分のミスから引き起こした取り返しのつかない事件にただオタオタするばかりである。この弟は真相を知らない。そこが何とも哀れである。兄が何故金を必要としていたかも、父親が真犯人を知っていることも、何も知らずちゃっかり兄が逃亡用に用意した金を持って逃げて行く。この弟、今はどうしているのだろう?その後の家族がどうなったかも知らずに、日々戦々恐々と逃げ回っているに違いない。生まれてこの方何一つ自分自身でやりとげたことのない彼は、何故か家族の愛を受け、しかし自分が愛されていることに気づかない。今回一番可哀相なのはこの弟だと私は思う。兄も父も自分の心を自覚し、対処しようと努力した(結果がどうなろうと)。しかしこの弟は何も知らず、何一つ解決できず、一生ダメ男のままでいなければならないのだから・・・。