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ぼんち Comments (4)
原作は自身も大阪・船場の老舗昆布店の生まれである山崎豊子。
脚色は市川菎監督の妻・和田夏十。
女と言う生き物のたくましさやしたたかさや嫌らしさと言った類いのものが、よく観察されている力作ですね。
そして商人の街・船場の古いしきたりに戦いを挑んだ、あるひとりのぼんぼんの反逆の半生の記録でもある。
ぼんぼんから、ぼんちになるって思ったよりも大変なんだね。
ここでは、家柄に合わない嫁は実家へと戻されるのだが、当主や跡取りが妾を持つことには鷹揚である。その妾に子供ができてしまった時でさえも、「船場のしきたり」に基づいて粛々と事後処理は行われる。そんなこともあり、市川雷蔵演じるぼんちは三人の妾を持つことになる。
しかし、満州事変がはじまり、船場の社会や雷蔵の店にも戦争の影が忍び寄る。原材料が統制されて足袋の生産が自由にはできなくなり、彼らの商売は縮小せざるを得なくなくなるのだ。そして、大阪の大空襲により、蔵一つ残してすべてが灰燼に帰す。
この一つ残った蔵に、雷蔵の三人の妾が逃げ込んでくる。さらには疎開先から祖母と母親も戻ってきてしまうのだ。懐にしまい込んでいたなけなしの現金を、等分にしてこの五人に分け与える雷蔵。彼はそれぞれを田舎へと疎開させるのだった。
これを見て、フランスの経済学者トマ・ピケティが、二つの大戦間に富の偏在が最も小さかったことを明らかにしていた著書のことを思い出した。多くの戦死者を出した二つの世界大戦の時代に、その前後に比べて人類の富の分配が平等に近かったという歴史の皮肉である。
市川崑の作品には戦中・戦後の混乱がよく描かれている。その時代を想起させる映像を挿入することで、映画があの時代について語っているということを強く観客に訴えているのだ。
少年期に、角川による金田一耕助シリーズや「ビルマの竪琴(中井貴一版)」を観てきた者にとって、この市川の回顧壁と呼んでいいほどの、執拗な戦争への言及への興味は尽きない。
それにしても、編集が良くないのか、巨匠・市川崑も1960年当時はまだ若かったのか、この作品の前半はリズムが滞りがちである。戦争が始まって、子供へ会いに岸和田へ行くあたりから乗ってくる感じがするのは、やはり市川は戦争の時代を描く映画作家だからなのだろうか。
今作は「炎上」、「破戒」とは違いカラー作品で作風もそこまで重苦しいものではないので比較的おすすめしやすい。
内容も現代のライトノベルの設定によくあるある意味ハーレム物だし。
しかしそこは流石に文芸大作が原作なので、大阪船場特有のしきたりや文化などがきっちりと描かれていて見ていて勉強になる。こんな世界があったんだなぁと。
雷蔵が出演している映画を見る度にこの役者が好きになる。自分は断然勝新派ではあるが、雷蔵の役の降り幅は半端ない。硬派から軟派、学生、老人、侍、スパイとどんな役でもお手のもの。これが本物の芸なのだなと感心してしまう。
そんな大阪の老舗問屋のぼんぼんについてのお話。その後に社会派作品を量産する山崎豊子とは思えないほど、男と女についてのエピソードだが、ユーモアたっぷりの雷蔵効果もあってか憎めない作品となっている。残念なのは、口説きのテクニックなんてことより大金をはたいて女をものにすることばかりで、観ていて気持ちいいものじゃない・・・