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晩菊 Comments (2)
人付き合いも少なく物静かな人柄でいて、撮影ぶりは迅速で無駄がない、助監督も務めたこともある黒澤監督もその仕事ぶりに感銘していたと言う成瀬巳喜男監督、撮影所仲間からは作風から「ヤルセ・ナキオ」と称されていたらしい。兎に角、市井の人間を描いたら凄まじいばかりの生々しさ、リアリティとペシミズムの権化のようなひとですね。それでいて皮肉の利いたユーモア精神も忘れておらず当時の庶民感情の代弁者的な共感性があったのでファンは多かったようです。NHKの番組で知ったのですが柄本明さんもその一人、亡き志村けんさんとの芸者コントの企画は本作にインスパイアされたと語っておられたので興味をもって鑑賞した次第。
今はもう、とうに盛りの過ぎた芸者仲間の4人の女性の生きざまを赤裸々に描いています、だから立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花だった姉さん方も今や例えて晩菊なのでしょう。
戦後まもない時代ということもあり世知辛い世の中、花柳界の粋な風情も地に落ち、かっての旦那衆の凋落ぶりもあって気が滅入ります。
等身大の女性を描かせたら並ぶべき人がいないと言われたほどの名匠ですから、女性たちへの応援歌であると同時に、都合の良い女らしさやロマンスを女性に求めるなら、そもそも男たちがしっかりしなければいけませんよ!、との檄を込めているのでしょう、身に沁みました。
ユーモアも確かにありますが余りにも辛辣、志村さん、柄本さんのコントとは似て非なるものでした。それにしても女優陣の迫力にくらべ男優陣の存在感の薄さは何でしょう、「女は生まれながらにして女優である」の名言どおり、圧倒されまくりでした。
「晩菊」は数少ない杉村主演作品である。映画では脇役で登場することのほうが多いこの女優は、スクリーンに映るやその物語において最も気になるキャラクターとなる。気が付くと、彼女の演じる人物の一挙手一投足が気になって仕方がなくなるのだ。
杉村の芝居の真骨頂はやはりコメディであろう。
この映画では、むかし熱を上げていた男の訪問を受けてからの身支度のシークエンスでそれを確認することができる。そうすることで毛穴が塞がって化粧ののりが良くなるのだろうか、喜々として氷を割り、手拭いに包んで顔を冷やす。この時の動作と表情が、観客の微笑みを誘う。
このように嬉しくて小躍りしたくなる大の大人の心情を、杉村は日常の何でもない動作を芝居にすることで表現する。
このような杉村の芝居は成瀬巳喜男の作品のみならず、いくつかの小津安二郎の作品にも見ることができる。キャストの中に彼女の名前を見つけると、映画を観る前から楽しみになるものだ。客を呼べる俳優とはこういうことを言うのだろう。
しかし、この作品においては、そのような彼女の力量を無駄にしてはいまいか。
上原謙が演じる昔の男への想いが、彼の切り出した金の話を契機に急速に冷めていく。この心情の過程を、映画は杉村の独白によって観客に説明してしまう。
なぜ、この物語の決定的に重要な転換点を、杉村の芝居ではなく、セリフで表現したのか。名匠成瀬にして、これはないだろうと言いたい。
懐旧と思慕の情が、世知辛い借金の話を境に軽蔑へと変化する。これを芝居や映像で表すことなく、俳優のナレーションで説明してしまったのはなぜなのだろう。
杉村の芝居がすばらしいだけに、このモノローグが惜しまれる。