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人間の條件 第3・4部 Comments (3)
関東軍に召集された《梶二等兵》事あるごとに古参兵から“可愛がられる”
人間とは何か?
高い理想を持つ梶にとって“軍隊の規律”とゆう高い壁が彼の行く先に立ちはだかる。
第三部の前半部分で、いつもみんなの足を引っ張ってしまう田中邦衛のキャラクターを観た人は思う事だろう。
「キューブリックの奴パクリやがったなぁ〜」…と(笑)
この第三部に関しては、似た様な題材として勝新太郎主演の『兵隊やくざ』が在る。
上官からどんなに制裁を受けても、常に顔を前に突き出す《勝新=大宮二等兵》とゆう、映画史に残る強烈なキャラクターだ。
正直に言ってしまうと、滅茶苦茶に面白い『兵隊やくざ』と比べてしまうと些か分が悪い。
しかし、だからと言って決して本作品の出来が悪い訳ではありません。
生真面目に戦争・軍隊批判を打ち出してしまっているが、娯楽性に満ち溢れた『兵隊やくざ』の様なアプローチこそ、観客を笑わせながら軍隊の不条理をより炙り出せていると思えるからですが…これは本来他の作品と比較するのは意味の無い事では在ります。
あくまでも個人的な見方としての意見でご容赦を…。
「会いたい人にはいつかきっと会える気がします」
梶の理想に共感を覚える人達が彼の前を通り過ぎて行く。
第四部ではいよいよ戦況が悪化の一途を辿る。
上等兵となり部下を持つ身となる《梶上等兵》
“彼の理想”は古参兵との軋轢を悪化させてしまう。
ここまでの第一・二部での山村聰。そして第三部同様に、この第四部でも彼の考え方に共鳴する上司や部下が多数現れる事で“孤立感”が生まれずに、映画的な面白味は若干ながら薄まってしまってはいる。
特に第一部で脇役出演し、直属の上司となる佐田啓二に何度となく哀願する事でその思いは強まる。
とは言っても第三・四部併せ、たっぷりと極上の3時間はまたしてもあっという間に過ぎ去ってしまった。
いよいよ日本は泥沼へと足を踏み入れる。
全六部作のクライマックスが近づいている。
そして背筋が凍った
どっかに人間を解放する約束の地がある
国境の向こうにもっといい世界があるというんだ
それこそ人間を人間として扱ってくれる世界さ
なんという恐ろしいブラックジョークだろう!
脳天気にも程がある
しかし本人達は至って真面目に全人生をかけてこの台詞を言っているのだ
国境の向こうとはスターリン体制下のソ連の事なのだ
それがどれ程恐ろしい意味を持つことか21世紀の私達は知っている
しかし主人公達は本作で描かれる日本軍の軍隊生活などはスターリン体制下のソ連と比較すればむしろ天国と言うべき、人間性など微塵もない世界が国境の向こう側に展開されていたことを何も知らないのだ
当時の人々が如何に社会主義思想に夢を見ていたのか、空想的に理想化していたのかが良く分かるシーンだ
いや、未だにこの当時のままの考えで固定されている人々もまだまだ多くいるくらいだから、それは宗教的な迄に信じ込んでしまったものなのだろう
哀れだ
そのマインドセットで軍隊生活の日常を見た光景が本作では描かれる
第四部で国と国が武力を持って知力と体力の限りを尽くして、ぶつかり合う戦争においては、思想も人間性もなにもないのだ
国家というものは共産主義であろうと社会主義であろうと関係ない
国家戦略、軍事戦略の利害のみで動くのだ
共産主義国家であっても軍国主義であり帝国主義なのだ
むしろ共産主党独裁はファシズムと変わりはない
ソ連はそうであり、現代の中国も北朝鮮もまたそうであることを私達は知り尽くしているのだ
であるならば一人の人間として生き残るために必要なことは何か?
それは武器と戦う為のスキルを獲得することだ
各人にそれを持たせ訓練し、組織として機能できる規律を持たせる
それを修羅場に於いても活かせるように骨身まで叩き込まれた方が、実は本人に取っても良い、正しいことがハッキリしてしまうのだ
それが現実だ
本作は驚くべきことにそれを描いている
本作は単なる社会主義礼賛の反戦映画ではないことを終盤で証明していたのだ
終盤の戦闘シーンはそのスペクタクルさ、リアリティーに於いて、後年のベトナム戦争の現実を扱う米国映画の数々にも決して負けないものがある
日本映画でもこれ程のものが撮れたのだ
単なる反戦映画でしょ、と忌避していたらもったいないことだ
軍隊内の人間関係の様子から戦闘シーンまで何もかもがリアリティに溢れ過ぎていて衝撃的だった。なんという現実感... 軍隊内でのパワハラや虐めに近い暴力。先輩兵士達の理不尽なシゴキ。しかし、その様に軍隊内では粋がり威張っていた兵士達も、実際の戦闘に出ればタダの人間。ソ連軍の強力な兵器を前にしたら何の太刀打ちも出来る訳もなく、どんなに強い兵士だろうが弱い兵士だろうが皆んな同じタダの人間。強力な兵器を前にまるで虫ケラの如くいとも簡単にゴロゴロと殺されていく。泣き叫び、最終的には発狂する始末。兵士達は権力者達に洗脳され只々良い様に使われただけ。極限に暴力的で狂っている世界。それが戦争...
前作でヒューマニズム、そして勤務する鉄鋼会社で奴隷の様に扱われる捕虜達の自由の為に戦争の狂気と戦ってきた主人公・梶も、軍隊に入れば尚更微力な存在に。初年兵や上等兵ごときが軍部に抵抗し改革できる訳も無く、戦争の狂気にガッツリと巻き込まれていく。もうこの狂気に身を任せることしか出来ない。逃れる道は無い。それでも目の前の狂気と微力ながらも戦い、未来への活路を少しでも見出そうとする。心までは国家に渡さない。そんな綺麗事だけでは済まない様子が物凄くリアリティがあって観ていて苦しかった。
そんな主人公・梶を演じた仲代達矢の演技がとにかく凄い。前作では会社員だった梶は本作で兵士に。前作からの変わり方が凄い。演技力の高さ、役作りの技術、名優たる所以が手に取るように分かる。
戦闘シーンのスケールの大きさと迫力も凄い。本物の戦車が大地を練り歩く。砲撃シーンのリアリティのある迫力は凄い。手に汗握る緊張感。
内容と戦闘シーン共に緊張感が凄すぎて疲れた。心臓がまだバクついている... 国家権力の恐ろしさ。軍国主義の恐ろしさ。そして戦争の悍ましさ。巻き込まれることしかできなかった国民達のリアル。もう絶対に繰り返させてはならない黒歴史だと改めて感じさせられた。戦争経験者達が作った筋金入りの反戦映画だった。